今日の一冊はこちら。
第2回 本屋大賞受賞
第26回 吉川英治文学新人賞受賞
高校生活を締めくくる最後の一大イベント「歩行祭」。全校生徒が、24時間かけて全工程80kmもの道のりを、歩き続けてゴールを目指す、その名の通り”歩く”イベント。北高では修学旅行がない代わりに、この歩行祭が伝統行事となっていた。主人公の一人、甲田貴子は同じクラスメイトの、どこかクールなイメージのある西脇融に、ある想いを抱いていた。貴子と融は、異母兄弟でありながら、お互いに引け目を感じあい、これまでまともに会話すらしたことがなかった。その状況から一歩前に進むべく、貴子はある賭けをする。
お互いが相手のことを考えるが故のすれ違いや、とても繊細ではかない青春の情動。周囲を彩る個性豊かな生徒達。たった1日の、それも”ただ歩くだけ”のイベントに、彼らの揺れ動く想いが描かれている。
高校生活のお話です。西脇融のお父さんが、不倫をして出来た子供が甲田貴子です。お互いの存在は以前から知っていました。そして、くしくも二人は同い年で、なんと同じクラスメイトになってしまいました!
なんという運命のイタズラ!あぁ…!
貴子は、自分達のせいで、融の家庭が崩壊してしまったことに対してすごく引け目を感じています。
融ももちろん貴子親子に対して良い感情は抱いていないのですが、二人ともやはり心の奥底では’兄弟’という意識があって、どうもちょっと気になる…
周りの生徒達は二人の関係のことを知らず、実は付き合っているんじゃないかと噂を立てます。
というのが物語のキーなのですが、この二人以外のキャラクター達が皆個性があって実に面白い。
女の子同士の、独特の回りくどい恋の駆け引きのデッドヒート。はたまた男の子同士の、皆まで言わずとも分かり合える、熱い友情。
ぶっ飛んだ設定ではなく(高見くんという子以外はw)非常に微妙な性格や気持ちの差異をすごく自然に表現されていて、リアルに感じます。そういった著者の人情描写の背景にある、洞察力というか、人への愛情といったものを感じました。
とまぁ高校生達の会話や気持ちを描きながら歩行祭が進んでいくわけですが、そもそも80kmを夜通し歩くって、どんな苦行やねん!とまず思いました。汗
これが著者の恩田先生の母校茨城県の水戸第一高校で実際に行っていたというものだから驚き。
しかしながら、歩き続ける中で生じる足の痛みや疲れの描写は、経験した人でしか書けないであろう言葉で表現されていました。しかしその辛さがあるからこそ感じられる、何にも代えがたい大切な気持ちが生徒達に芽生えます。
しんどい経験こそが、人を成長させる。そんな言葉がぴったりだなと思いました。
こちらの作品も映画化されております。
今回はその映画版のキャッチコピーで締めさせて頂きます。
「みんなで夜歩く。それだけなのに、どうしてこんなに特別なんだろう」