2017年01月29日

オードリー若林正恭『社会人大学人見知り学部

【リライト】2017.1.28 【初稿】2016.12.13

こんにちは、jikuasiです。
本日ご紹介する一冊はこちら!



”若手芸人の下積み期間と呼ばれる長い長いモラトリアムを過ごしたぼくは、随分世間離れした人間になっていた―。スタバで「グランデ」と頼めない自意識、飲み屋で先輩に「さっきから手酌なんだけど!!」と怒られても納得できない社会との違和。遠回りをしながらも内面を見つめ変化に向き合い自分らしい道を模索する。芸人・オードリー若林の大人気エッセイ、単行本未収録100ページ以上を追加した完全版、ついに刊行!”amazonより

読書芸人、オードリー若林さんの本です。

先日のアメトーーク!第3回読書芸人の回で、書店員さんに
「若林さんに本を書いて欲しい」と言われて、
「いやいや僕は…」
みたいな反応だったから、本は書いてないのかと思ってました。騙された!
もう本出してました!2013年に。

関連記事:【まとめ】アメトーーク!第3回読書芸人オススメ作品

関連記事:
【続!】アメトーーク第3回読書芸人オススメ作品【まとめ】


見つけた瞬間速攻で、バカリズムさんの架空OL日記と合わせてポチッと。

関連記事:バカリズム作 シュールなブログ本『架空OL日記』

内容は雑誌「ダ・ヴィンチ」に連載されていたエッセイを書籍化したものです。
人見知り芸人としても知られてますよね。

2008年の「M-1グランプリ」で準優勝してから、これまでの人生が一気にがらっと変わった若林さん。

それまでの下積み時代は、おそらく社会といわれる世界からは遠く離れた場所で暮らしていました。

それが急に、社会にポンと参加することに。仕事、人、環境、全てがこれまでと違う場所。

でも、当の本人は以前のままなので、うまく適応出来なかったり、疑問に感じたことをストレートに書き殴る。

簡単に言えば、末期の中2病患者で社会童貞。笑

読んでいて思ったのが、自分自身を観察する力がすごい、ということ。
こう、自分の外側に立って、自らを客観視する力というか。

スタバで「グランデ」と頼んだらカッコつけてると思われるだろうなー←と思っている自分
←誰も気にしてねーよ!
という感じでしょうか。

以前に書いた小池龍之介さんの本でも、これに似たことが書いてありました。

わなわなと怒っている自分がいるなー、ということを、自分が幽体離脱するようなイメージで、客観的に見る。すると、ふーっと怒りがおさまっていく。


関連記事:小池龍之介『考えない練習』

そんなように自分を上から、横から、覗いていく。

「オレはオレなんだから、考えたって仕方ねーよ」
と、他人事のように投げ捨ててしまうのではなく、しっかりと、自分自身と向き合って、対話を重ねていきます。

自分を否定して、矯正するのではなく、「こういう風にやった方がちょっと楽なんだな」くらいのふんわりとした心持ちで、徐々に社会に適合していく様が赤裸々に描かれています。

本についての考えもちょろっと書かれていました。

本一冊で人生が変わるほど甘くはないよ。本は本気で何かをしたい人間にとっては杖やビート板のような役割をすることはあるけど、
本だけの力で人間を変えることはできないと思う。だから、とめどなくダイエット本が出ては売れるし、自己啓発本も売れる。本当に変われるの
なら、一冊出版されたらその一冊以降売れない筈。やっぱり本人の意思と行動ありき。本は杖やビート板。”

まったく、おっしゃる通り。
そういうばエリエスブックコンサルティングの土井英司さんも言ってましたね。

読者が主であり、本は従だ。その本から必要な部分を取り出し、自分の中に練り込んでいく作業こそが、読み手がやるべきことなのだろう。 」


関連記事:『一流の人は、本のどこに線を引いているのか』 土井英司

先ほどビート板の例えがありましたが、このような具合で随所に比喩が盛り込まれていて、そのどれもがすごく的を射ているんです。

あまりに上手なので、読んでいて気持ちがいいです。
しかも、実際のエピソードを軸に話が組み立てられるので、共感しやすい。

さらには、文庫版は「完全版」と銘打っているとおり、100ページにもわたって追記がなされているのもポイント。

連載当初に書いていた内容を、さらに何年後の自分がツッコミを入れるというのがおもしろい。

世間知らずなんかじゃない。至極まっとうに、社会というコミュニティに置かれている「自分」、またお笑いというコミュニティに置かれている

「自分」、それぞれ真摯に向き合って、見つめて、一歩ずつ生きていく。そんな姿勢に胸をうたれました。

生きるのがつらい人、売れない芸人、という方達はもちろん、いまを生きる全ての人に読んでもらいたい一冊です。

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タグ:読書芸人
posted by jikuasi at 12:00| Comment(0) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月03日

ジャズをかける店がどうも信用できないのだが…

こんにちは、jikuasiです。
本日ご紹介する一冊はこちら!



”ファンデーションは女性全員をブスにするのに、すっぴんに大騒ぎするのはおかしい。「おまえといても男といるみたいだって言われる」とボヤく女性に「そんなことないよ」と励ますべからず。「小悪魔」は若い女では意味がない。ジャズを流す店に垣間見える誤魔化しの法則。――毎日の暮らしの中にはびこる思い込みに「待った」を入れる、目からウロコのエッセイ集。”amazonより

2014年に『昭和の犬』で直木賞を受賞した個性派作家。その独特の視点と感性から生み出される作品はどれも唯一無二な仕上がり。
今回の作品はエッセイです。姫野さんが世の中の「なんかそうなってしまっていること」に対してツッコミを入れていくのですが、まぁーキレッキレ。

タイトルの項では、ジャズが嫌いなわけではなく、ジャズをかける店が嫌いなわけでもなく、「なんかこうジャズがかかっている店が…」と言ってはります。
要は、「BGMはとりあえずジャズみたいなんでいっかー」というノリで、多くの店が右にならえで当たり障りのない選択をしてることがどうもお気に召さない御様子。
弦楽四重奏がかかる寿司屋があってもよいではないか。と。

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「ジャズをかける店がどうも信用できないのだが…。」という若干歯切れの悪いタイトルも好き。
たぶん新書で似たような作品があったとしたら、「ジャズをかける店には入るな」になってると思う。
恋愛小説だったら、「ジャズがかかる店」
経済書だったら、「ジャズをかける店はなぜ儲かるのか」

姫野先生は「どうも信用出来ないのだが…。」
いや、そんな風に言われても。。

ハッ!同意を求められてんのか!「…あなたはどうかしら?信用出来る?」てことか。
うーん、考えたこともない…笑 

てか、どうでもいい…笑

みたいな感じで独自の視点で辛辣につづられています。他にも

・化粧は女をブスにするのに、なぜ女性は化粧を重視しすっぴんを死守するのか
・単行本が出てから文庫が出るが、その順番を逆にしたほうがよいのでは
・屋外で鼻くそをほじるのは99,9%男性
・「おっぱい」なんて表現はいやらしくさすぎて不適切だ
・若い女を「小悪魔」と呼ぶのは本当の小悪魔に失礼だ

等々、テーマは多岐にわたります。わかるわーそれ、ととても共感出来る主張が多いのですが、なかには「何言ってんだこのおばさん」と思う点もあるわけであります。そこはもう人それぞれの価値観で解釈が変わって面白いかなと思います。
姫野先生の考察はちょっと哲学的だと感じました。

ちなみに最後まで読み終わると、装丁に込められた意味が分かりますよ。気付いた瞬間吹きましたw

よーい、どくしょっ!



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posted by jikuasi at 11:00| Comment(0) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月13日

阿川佐和子の『聞く力』で、ちょっと上級インタ


こんにちは、jikuasiです。
本日ご紹介する一冊はこちら!


『ビートたけしのTVタックル』や、『サワコの朝』でおなじみのタレント、阿川佐和子さんのエッセイ。
150万部以上売り上げて、出版された2012年では年間ベストセラーを獲得しています。

聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書))

阿川 佐和子 文藝春秋 2012-01-20
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この方です。
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この可愛らしいルックスで還暦オーバーですよ!もはやバケモnいつまでもお綺麗ですよね。


この本を購入したのはまだわたしが新入社員だった頃。
営業という最もコミュニケーションが重視される職種にもかかわらず、「あわわ…。もごもご」くらいしか喋れなかった当時のわたし。教育係の上司から、あろうことか年末年始の休み期間中の宿題として渡されたのがこの本でした。なんでお正月に。
ゆっくり雅楽の「ぴぁーーーーーーーぷぉーーーーー」という音色に心と耳を落ち着かせたいというときなのに。

著者の阿川さんはインタビューや対談といった仕事が多く、その経験で得た知識を、失敗も交えながら赤裸々に綴っています。
”スキルやノウハウを伝授する”というよりは、”上手にインタビューをしようと考えて取り組んだ過去の成功談と失敗談”という本です。
その中から数点をご紹介。

オウム返し質問活用法
この「オウム返し質問」は、概して驚いたときに使いますが、その言葉を再度ピックアップして叫ぶことによって発した語り手自身の心を喚起させる効果があるのでしょうか、「オウム返し」の次につながる答えは、その言葉をさらにかみ砕いた話になることが多いですね。


人の話を聞くときは、
「なるほど、すごいですね」と、
「それってどういうことですか」
の二つだけを使えばよいという言葉があります。
オウム返し質問は、例えば相手が「実は怖がりなものでして…」と言えばこちらは「怖がり?」と同じ言葉を繰り返します。
それはつまり、「それって具体的にどういうこと?」という質問をすることになるんです。そうすれば相手は別の言葉を使って、より分かりやすく伝えてくれるでしょう。

さらにはより話を深堀り出来るのでその話題について盛り上がれるし、掘り下げるということは話題が横へと拡げていける材料を聞き出すことになります。


相手のテンポを大事にする
私も仕事柄たくさんの人に会うことが多いのですが、とりわけ多いのが採用面接です。
色々と質問をしていくのですが、なるべく相手のテンポに合わせるようにしています。テンポと一口に言っても、言葉を発するスピードや、間合いの取り方、考えてから声に発するまでの時間、等々。

硬めの雰囲気の人にはしっかりとした敬語で、じゃっかん崩しながらフランクに。自分より年下の人には若者言葉を使って、なるべく相手のフィールドに入ることを心がけています。
そのようにして、相手に喋りやすい人だなと思ってもらえるような工夫をしていきます。


コミュニケーションの基本は「聞くこと」


結局、人とのコミュニケーションは、うまく話すことよりも、聞くことじゃないかと常々感じます。
こちらがいくら色んなおもしろい話や、良い情報を話そうとしても、相手がこちらを信頼していなければ、話は伝わりません。まずはインタビュアーとなって、相手の話を聞くよう心がけていれば、自然と相手は自分に信頼を寄せてくれるでしょう。

サブタイトルに「心をひらく35のヒント」と書かれています。
「聞く力」というのはつまり、相手から話を引き出す→相手が話したくなるよう信頼してもらう
→心をひらくということです。


わたしも交友関係を思い出したとき、とても良くしゃべる、マシンガントークの人より、
わたしの話を、横槍をいれずしっかりと聞いてくれる人に、すごく好意を感じます。

盛り上がりすぎてこちらが多く話していときは、「いかんいかん。」と一旦落ち着けて、相手に質問をして話をしっかり聞くように心がけてみようと思います。

そのときはくれぐれも、話を聞きながら「次はあのことを話そうかな…」などと考えずに、ただただ相手の話にぐーっと意識を集中させて聞いてください。
それに関してはこちらの本に書いてます。考えない練習

考えない練習 (小学館文庫)

小池 龍之介 小学館 2012-03-06
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こちらも合わせてどうぞ。コミュニケーションの教科書『こうすれば必ず人は動く』D・カーネギー
こうすれば必ず人は動く(文庫)

デール カーネギー きこ書房 2015-07-18
売り上げランキング : 243
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調べてみると著者の阿川佐和子さん、著作めっちゃ多い!50以上あります!
壮大なアウトプット力ですね。見習います。。

『聞く力』の続編も出ていますので、こちらもどうぞ。

叱られる力 聞く力 2 (文春新書)

阿川 佐和子 文藝春秋 2014-06-20
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2016年11月03日

『時をかけるゆとり』 朝井リョウ

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本日ご紹介する一冊はこちら!


時をかけるゆとり (文春文庫)

朝井 リョウ 文藝春秋 2014-12-04
売り上げランキング : 2488
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史上最年少直木賞受賞作『桐島、部活やめるってよ』でおなじみの朝井リョウ氏のエッセイ。
今、『何者』が実写化されて絶賛公開中ですね。リョウ君絶好調!

何者 (新潮文庫)

朝井 リョウ 新潮社 2015-06-26
売り上げランキング : 161
by ヨメレバ



会社員をしながら、朝4時に起きて執筆活動に勤しむというスーパーマン。私にはそんな芸当とても真似できたものじゃありません。
同世代でして、一方的に意識をしている存在であります。友達になりたい。

で、今作はいつもの小説とは違う彼自身のエッセイなのですが、とにかく、おもろい。
何がおもろいのか考察してみました。

1、洞察力
著者の作品全般に共通して言える、鋭い人間の観察力、洞察力。もちろんエッセイとなってもその力は健在。

どうして病院の受付のお姉さんというのは若干冷たいのだろう。受付で正直に「保険証を忘れたみたいです」と告げると、バカかお前はという顔をされたのち、別の日に保険証と領収書を持ってきてくれればいいと説明をされ、診察室に通された。


いや、絶対にお姉さん「バカかお前はなんて」思ってないって!
と、わたしは思いますが、彼の世界では本当にそのように思われ、口に出してまでいてそうなリアルな情景がひしひしと伝わってきます。


2、言い回し
小説の作品ではあまり見られない、コミカルな言い回しがテンポ良く響き渡ります。
「ポイントカードにイラストを書きますよ。何でも言ってください!」爽やかボーイは白い歯を覗かせてそう言った。女子プロが、「じゃあ猫で」等と全くプロを感じさせない退屈な返答をかましていたので、私は彼女を指差して言った。「この子の似顔絵を描いてください」
―パッと爽やかボーイが爽やか笑顔で見せてきたポイントカードには、巨匠の抽象画のようなたいへん抽象的な作品があった。


ひとつの言葉に修飾語がたくさんついていて(どれもくだらない)文章がとても長いのですが、なぜかリズム感があって軽快に読み進められる。
森見登見彦さんを思わせるような文体です。(森見さんのはより語彙に富んでいて、漢字も多くコムズカシイことをだらだらと書き連ねる、という手法です。だがそこがいい。)

3、直喩→暗喩のコンボ

100キロハイクとは[二日間かけて埼玉県本庄市から早稲田大学まで歩き通す]というドM行事である。「人生最大の過酷さを体験できる、ともっぱらの評判だが、参加者は抽選制度を設けたところで毎年千人を超すらしい。この大学にはそんなにも多くの真性マゾヒストが眠っているのだ。抽選に漏れたマゾヒスト達は何をしてその鬱憤を晴らすのだろうか。よくない想像がふくらむ。



すみません、上の引用は暗喩→暗喩でしたw
まぁとにかく例えが上手!その場面ごとに「これ!」としか言いようのない表現をピシャリと合わせてきます。クスっときます。


上に挙げたような点が非常にうまいなぁ~と思いました。
そして私自身、”人を惹きつける文章を書く”という点で非常に参考になりました。これからちょっと真似していこうかな。

エピソード自体は大したものじゃないものもあるのですが、たとえば巻頭の1話なんて、

「お腹が弱い→バスに乗る直前でトイレに行きたくなる→民家でトイレを借りる→バス待っててくれた」

ていうだけのどこにでもありそうな話なんですが、実に巧妙な話術(記述?)で笑わされました。


amazonのレビューでも書かれていましたが、電車の中で読むのはやめておいた方がよいです。

時をかけるゆとり (文春文庫)

朝井 リョウ 文藝春秋 2014-12-04
売り上げランキング : 2488
by ヨメレバ
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